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  • 学会発表

地域在住高齢者のウェルビーイングの年代による変化について日本老年行動科学会第27回札幌大会にて発表 90代のウェルビーイング低下、老年的超越が関与していることを示唆

ベネッセ シニア・介護研究所は、主要なテーマの一つである「高齢者のQOLに関する調査・研究」について、2023年の地域在住高齢者を対象とした調査(注1)、2024年のベネッセスタイルケアが運営する有料老人ホームのご入居者を対象とした調査(注2)に引き続き、地域在住高齢者を対象とした調査を行いました。

本調査では高齢期に死の恐怖が消え、身体的な健康に対するこだわりが低下し、他者を重んじる利他性が高まるなどの変化が生じる「老年的超越」(注3)と心理的ウェルビーイングの関係性について調査しました。その結果、90代の地域在住高齢者の心理的ウェルビーイングが他の年代よりも低く、心理的ウェルビーイングに老年的超越が関与している可能性が示されました。調査結果は2025年8月30日~31日に北星学園大学にて開催された日本老年行動科学会第27回札幌大会において、「地域在住高齢者の心理的well-beingに対する老年的超越の影響」(筆頭発表者:岡部祥太)と題して発表しました。

本調査の背景

ウェルビーイング(well-being)とはwell(よい)とbeing(状態)からなる言葉で、世界保健機関(WHO)では、ウェルビーイングのことを「個人や社会のよい状態。健康と同じように日常生活の一要素であり、社会的、経済的、環境的な状況によって決定される(翻訳)」と紹介しています。(注4)

高齢者のウェルビーイングの実態や加齢による変化を知ることは、「人生100年時代」を豊かに生きるためのヒントが得られるだけではなく、社会全体として高齢者のより良い生活をサポートするうえでも重要になります。

近年、高齢者の精神的健康といった心理的なウェルビーイングの維持に老年的超越が重要であることが示唆されています。老年的超越とは高齢期に高まるとされる、「物質主義的で合理的な世界観から、宇宙的、超越的、非合理的な世界観への変化」を指します(注3)。そこで、高齢者の心理的ウェルビーイングの理解を深めるために、60代から90代の地域に在住する高齢者を対象にしたアンケート調査を行いました。

アンケート概要

 
実施方法 郵送によるアンケート調査
調査実施時期 2025年2月18日~2025年3月4日
調査対象者 日本能率協会総合研究所にモニター登録している日本全国の60代から90代の方(本人の意思でアンケート回答可能な方)
回答者数 440名
主な調査項目 心理的ウェルビーイングの指標(精神的健康(注5)・協調的幸福(注6)・主観的幸福(注7)・生活満足度(注8))、孤独感(注9)、老年的超越(注3)など
倫理的配慮 検証への参加に同意いただけない場合もいかなる不利益を被ることがないことを説明し実施。ベネッセ シニア・介護研究所研究倫理審査委員会の承認を受けた(承認番号:20250102)

調査結果:90代の心理的ウェルビーイングが低下

アンケートの回答を分析した結果、主に以下のことが明らかになりました。

  1. 心理的ウェルビーイングの指標である精神的健康、協調的幸福、生活満足度の90代のスコアが低い(図1)
  2. 90代の孤独感が高い(図2)
  3. 60代と90代と比較して80代の老年的超越が高い(図2)
  4. 老年的超越のスコアは心理的ウェルビーイング関連のスコアと正の相関を、孤独感のスコアとは負の相関を示す
地域在住高齢者のウェルビーイングの年代による変化について日本老年行動科学会第27回札幌大会にて発表
地域在住高齢者のウェルビーイングの年代による変化について日本老年行動科学会第27回札幌大会にて発表

人生100年時代のウェルビーイングを考えるために

今回は簡易的な分析結果のみ発表しましたが、今後、身体状態の影響などデモグラフィックデータを加味した分析を行うことで、高齢期の心理的ウェルビーイングの実態がより詳細に明らかになると期待しています。ベネッセ シニア・介護研究所は、これからも「年をとればとるほど幸せになる社会」の実現に向け、調査・研究を推進し、広く発信してまいります。

注1.ベネッセ シニア・介護研究所 「人生100年時代」におけるご高齢者のウェルビーイングの年代による変化について日本老年行動科学会第25回青森大会にて発表 90代のウェルビーイング低下、年代ごとに関連する要因の影響に違いがあることを示唆

注2.ベネッセの有料老人ホームのご入居者は「年代が上がるほど、QOLが高い」ことを示唆

注3.老年的超越
増井(20162016)日本老年医学会雑誌. 53, 210-214.

注4.World Health Organization. “Well-being”. Health Promotion Glossary of Terms 2021, 2021, 10p.

注5.精神的健康
精神的な健康状態を評価するための尺度により測定。5つの項目から構成されており、最近2週間の気分や感情に関して6段階で評価する。スコアが高いほど良好な精神的健康状態を示し、うつ病や不安、主観的な生活の質と相関することが知られている。
Awata et al., (2007) Reliability and validity of Japanese version of the World Health Organization-Five Well-Being Index in the context of detecting depression in diabetic patients. Psychiatry and Clinical Neurosciences. 61(1), 112-119.

注6.協調的幸福
他者との協調的な幸せや、他者を幸せにしているかどうかという概念を測定するための尺度により測定
Hitokoto, H., Uchida, Y. (2014) Interdependent Happiness: Theoretical importance and measurement validity. Journal of Happiness Studies. 16, 211-239.

注7.主観的幸福感
LyubomirskyとLepperによって開発された主観的な幸福感を評価するための尺度の日本語版により測定。スコアが高いほど幸福感が高いことを示し、生活充実感や自尊感情、うつとの相関関係があることが知られている。
島井ら(2004)日本語版主観的幸福感尺度(Subjective Happiness Scale: SHS)の信頼性と妥当性の検討. 日本公衆衛生雑誌. 51(10), 845-853.

注8.生活満足度
「人生全体についての満足感」「心理的安定性」「老いについての評価」の3次元から主観的な幸福感を測る尺度により測定
古谷野 (1996) 老年精神医学関連領域で用いられる測度;QOLなどを測定するための測度(2). 老年精神医学雑誌. 7, 431-441.

注9.孤独感
Arimoto, A., Tadaka, E. (2019) Reliability and validity of Japanese versions of the UCLA loneliness scale version 3 for use among mothers with infants and toddlers: a cross-sectional study. BMC Women's Health.