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  • 研究論文・レポート

表情解析 AI により有料老人ホームで働くスタッフのQOLの一端を把握できる可能性を示唆

ベネッセ シニア・介護研究所は、「年をとればとるほど幸せになる社会」の実現に貢献することを目指し、調査・研究を推進しております。このたび、主要なテーマの一つである「QOL(Quality of life)」に関連し、SOLO Wellbeing Ltd.(注1)の表情による感情分析技術(以下、表情解析AI)により、QOLを客観的に把握できるかどうか調査を行いました。
ベネッセスタイルケアが運営する有料老人ホームで働くスタッフを対象とした検証により、スタッフのQOLを表情解析AIにより測定できる可能性が示されました。

本調査の背景

QOLとは生活や生命の質を表す言葉で、世界保健機関(WHO)では、QOLのことを「個人が生活する文化や価値観の中で、目標や期待、基準、関心事に関連したその人自身の人生の状況に対する認識」と紹介しています(注2)。有料老人ホームにおいてより良いケアを実践・提供するうえで、スタッフのQOLを把握することは重要です。QOLの測定については、これまでさまざまな質問紙(アンケート)が開発されてきました。しかし、アンケートに回答する手間がかかることなどから、簡易的にQOLを把握する方法を確立することが大きな課題となっています。
近年、AIや画像解析精度が進展したことにより、表情から感情やQOLを推測する技術の開発が進んでいます。そこでSOLO Wellbeing Ltd.が開発した表情解析AIにより有料老人ホームで働くスタッフのQOLを測定することが可能かどうかを明らかにすることを目的に検証を行いました。

検証方法

検証にはベネッセスタイルケアが運営する有料老人ホームで働くスタッフが参加しました。表情解析AIがインストールされたタブレット端末を用い、2週間ほど日々表情を撮影してもらい、QOLスコア(表情解析AIによる客観的QOLスコア)を取得しました。2週間の撮影期間終了後に、参加者に主観的な精神的健康を測るアンケート(WHO-5精神的健康状態表、注3)と主観的な幸福感を測るアンケート(日本版主観的幸福感尺度、注4)に回答してもらい、主観的QOLスコアを取得しました。表情解析AIによる客観的QOLスコアとアンケートによる主観的QOLスコアの関連性を分析し、相関関係があるかを検証しました(図1)。

表情解析AIにより有料老人ホームで働くスタッフのQOLの一端を把握できる可能性を示唆

検証結果

分析の結果、アンケートによる主観的QOLスコアと表情解析AIによる客観的QOLスコアに弱~中程度の統計的に有意な正の相関関係があることがわかりました(図2)。したがって、スタッフの主観的なQOLを表情解析AIである程度把握できる可能性が示されました。

表情解析AIにより有料老人ホームで働くスタッフのQOLの一端を把握できる可能性を示唆

今後の展望

本調査により、スタッフの精神的健康と主観的な幸福感という観点から見たQOLを、表情解析AIを用いて把握できる可能性が示されました。今回の検証期間は2週間と短く、また、表情解析AIによる表情撮影の頻度も限定的だったことから、データ取得の頻度や期間を延ばしたり、より自然な表情を撮影できるように撮影方法を工夫したりすることで、より詳細な結果が得られると考えられます。
介護現場で働くスタッフのQOLを高く維持することは、より良いケアの提供に大きく寄与すると考えられます。そのため、表情解析AIなどテクノロジーの活用によって介護現場で働くスタッフのQOLを可視化することは、介護の質のさらなる向上につながる可能性が期待できます。
ベネッセ シニア・介護研究所は、今後も「年をとればとるほど幸せになる社会」の実現に貢献するために、テクノロジーの有効活用も視野に入れながら、調査・研究を推進し、その成果を広く発信してまいります。

本調査の概要

実施時期 2023年11月~2024年3月
検証対象者 (株)ベネッセスタイルケアが運営する有料老人ホームで働くスタッフ(平均年齢35.5歳、男性14名、女性14名)
使用質問紙 WHO-5精神的健康状態表、日本版主観的幸福感尺度
調査対象者 ベネッセスタイルケアが運営する有料老人ホームのご入居者(ご本人の意思でアンケート回答に同意いただいた方)
倫理的配慮 検証への参加に同意いただけない場合もいかなる不利益を被ることがないことを説明し、同意を得られたスタッフを対象に実施。ベネッセ シニア・介護研究所研究倫理審査委員会の承認を受けて実施(承認番号:20230901-2)

注1.SOLO Wellbeing Ltd.について
SOLOはAIによる表情解析ソリューションを開発・提供する企業です。

注2.World Health Organization.

注3.WHO-5精神的健康状態表
WHOが開発した精神的な健康状態を評価するための尺度。5つの項目から構成されており、最近2週間の気分や感情に関して6段階で評価する。スコアが高いほど良好な精神的健康状態を示し、うつ病や不安、主観的な生活の質と相関することが知られている。
Awata et al., (2007) Reliability and validity of Japanese version of the World Health Organization-Five Well-Being Index in the context of detecting depression in diabetic patients. Psychiatry and Clinical Neurosciences.

注4.日本版主観的幸福感尺度
LyubomirskyとLepperによって開発された主観的な幸福感を評価するための尺度の日本語版。スコアが高いほど幸福感が高いことを示し、生活充実感や自尊感情、うつとの相関関係があることが知られている。
島井ら(2004) 日本語版主観的幸福感尺度(Subjective Happiness Scale: SHS)の信頼性と妥当性の検討. 日本公衆衛生雑誌