提供:ベネッセホールディングス

社名でもあり企業理念でもある「Benesse=よく生きる」を象徴するベネッセの介護事業。事業のスタートから26年。300以上の拠点で介護サービスを展開するベネッセの“介護哲学”に迫る。

テクノロジーの活用は入居者のQOL向上のため

 北海道から九州まで、342拠点(2021年11月1日現在)で高齢者向けホームを展開する「ベネッセスタイルケア」は、ここ数年、テクノロジーの活用に力を入れている。

「その方らしさに、深く寄りそう。」ためには、持てる力をクリエイティブに発揮する必要があると語るベネッセホールディングス取締役、ベネッセスタイルケア代表取締役社長の滝山真也氏
「その方らしさに、深く寄りそう。」ためには、持てる力をクリエイティブに発揮する必要があると語るベネッセホールディングス取締役、ベネッセスタイルケア代表取締役社長の滝山真也氏

 「そう聞くと、『人材不足解消』や『効率化』といった言葉を思い浮かべる人は多いでしょう。確かに、それもあります。しかし、『その方らしさに、深く寄りそう。』を事業理念に掲げる私たちがテクノロジーを活用する真の目的は、ご入居者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を高めるため。介護DXの本丸は、そこにあると考えています」と話すのは、ベネッセスタイルケア代表取締役社長の滝山真也氏。あくまで一番の目標は「自分や自分の家族がしてもらいたいサービス」を目指すことにあるという。とはいえ、その目的を果たすためには、テクノロジーが可視化したデータを、入居者一人ひとりの「その方らしさ」に照らし合わせながら読み解くことができる“介護の匠”の存在が不可欠。26年の介護事業の実績を持つ同社には、それができる“マジ神”というスタッフが存在する。

 数年前、匠の技を目の当たりにした若いスタッフが、思わず「○○さん、マジ、神ッスね」と言ったことがきっかけで生まれた社内資格、通称「マジ神」。育成によって多くの「マジ神」を育てることはできないかと、極めて高いスキルと実践力を持った複数のマジ神レベルの介護スタッフに聞き取りを行い、マジ神たちに共通する考え方や気づき、入居者のその方らしさに寄りそうアプローチ方法などを抽出。それをフレームワーク化して、教材を作成。研修体系を再構築して、マジ神の育成を進める新たな取り組みを始めた。

 現在、マジ神はのべ182人(2021年11月1日現在)。テクノロジーをQOL向上に活用するためには、マジ神と呼ばれる人財が一定数必要だと考えていた滝山氏は、育成が進んでいる現状から、センサーやAIなどのテクノロジー導入に踏み切った。満を持しての決断だった。

データの裏に隠れた真実を見抜く、生きた「人」の目が大切

 滝山氏が、データを正しく読み解くことができる匠の存在を重視するのには、理由がある。モデルホームでセンサー活用の実証を進めていたときのことだ。BPSD(認知症の行動・心理症状)の要因分析に協力したある入居者の初期段階の記録には「帰宅願望、泣き出す、多動、多弁、口調が荒いときがある、食事・入浴・服薬などで拒否もある」とあった。しかし、2カ月経過した時点の記録では「やや傾眠気味だが、穏やかにリビングで過ごされていることが多い」。睡眠センサーのデータでは、この2カ月間で睡眠時間がかなり延びていた。

 「ここでマジ神とモデルホームのスタッフが振り返ったのは、今の状態が本当にそのご入居者の『その方らしさ』なのか、ということでした」と滝山氏は言う。

 実は、この2カ月の間にある向精神薬が新たに医師から処方されていたのだ。以前は他の人の食事の後片付けを手伝おうとするなどの様子も見られていたが、今は穏やかというより、どろんとした表情でうつらうつらすることが多くなっていた。マジ神とモデルホームのスタッフは、その入居者のさまざまな情報をすり合わせ、「今は『その方らしさ』に反した状態では」との仮説を持った。医師と連携し、投薬を調整するなどしたところ、その入居者は、本来のお世話好きな人柄を取り戻した。薬を減らしながらBPSDも落ち着きつつあり、今は快活に暮らしているそうだ。

 「センサーデータが増えることで新たに見えてくることはありますが、一方で見誤ることもあります。睡眠時間が長くなったというデータは、A様にとってはよいことでも、B様にとってはよくない場合もある。その方らしさと照らし合わせて、どう読み解くかが重要です。私はみんなに『センサーは体温計くらいに思っておこう』とあえて言っています」

専門性の高いスキルを持った介護スタッフである「マジ神」のノウハウを教師データとした「マジ神AI」。一般介護スタッフのスキルを向上させるとともに、介護される方へ質の高いサービスを提供する
専門性の高いスキルを持った介護スタッフである「マジ神」のノウハウを教師データとした「マジ神AI」。一般介護スタッフのスキルを向上させるとともに、介護される方へ質の高いサービスを提供する

人とテクノロジーの融合がブレイクスルーすれば、介護の未来が変わる

 同社は、2017年、介護・看護記録プラットフォーム「サーナビ(サービスナビゲーションシステム)」を自社開発。これによってスタッフ間の引き継ぎや情報共有がスムーズになり、スタッフはケアにかけられる時間が増えたという。さらに2015年に設立されたベネッセ シニア・介護研究所において検証を進めるとともに、複数のマジ神の知見や経験を盛り込んだ<クオリティデータ(意味あるデータ)>を数多く集め、データ化しようと試みている。

 「このクオリティデータが一定数集まり、教師データとすることができれば、マジ神的な思考をAIの力で再現することができる可能性があります。それがマジ神AIソリューションです」

 テクノロジー活用と同時にこのソリューションの開発、導入を進めれば、マジ神育成もスピードアップを図ることができる、と展望を持つ。2022年3月には、センサーやロボットを数多く導入し、ソリューション開発を推進するセンシングホームが新たに誕生するそうだ。

 「将来的には、私たちがつくり上げたソリューションを国内外に展開することも視野に入れています。マジ神育成につながる真の『介護業務支援システム』が完成した暁には、社外にも広くお示しし、介護の人財育成に貢献していきたいと考えています。ご高齢者のQOL向上のため、そして日本の介護のステージを変えるためにも、介護の仕事の真の価値を発信していきたいです」と滝山氏は語った。

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